何回書いても体裁の定まらない記事。
2023年は208回映画館で映画を見た。新作旧作混じっているのと複数回見たものがあるので、新作は多分195本くらい。
- ベスト
- その他おもしろかったもの
- Passages(アイラ・サックス)
- ハント(イ・ジョンジェ)
- BAD LANDS バッド・ランズ(原田眞人)
- ファースト・カウ(ケリー・ライカート)
- フェイブルマンズ(スティーブン・スピルバーグ)
- 夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく(酒井麻衣)
- 異人たち(アンドリュー・ヘイ)
- 怪物の木こり(三池崇史)
- TALK TO ME トーク・トゥ・ミー(フェリッポウ兄弟)
- バーナデット ママは行方不明(リチャード・リンクレイター)
- ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE(クリストファー・マッカリー)
- 雪山の絆(J・A・バヨナ)
- オペレーション・フォーチュン:ルセ・ド・ゲール(ガイ・リッチー)
- ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!(ジェフ・ロウ)
- フリークスアウト(ガブリエーレ・マイネッティ)
- ジョン・ウィック コンセクエンス(チャド・スタエルスキ)
- イノセンツ(エスキル・フォクト)
- マエストロ その音楽と愛と(ブラッドリー・クーパー)
- 法廷遊戯(深川栄洋)
- FALL フォール(スコット・マン)
- 映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ(作田ハズム)
- まとめ
ベスト
レッド・ロケット(ショーン・ベイカー)
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元ポルノ男優がLAから地元のテキサスに都落ちして嫁の実家に転がり込み再起を図るという話。主人公は全財産22ドルなので車があるわけもなく、テキサスのだだっ広い道をひたすら徒歩や自転車で移動していて、その情景からひしひしと伝わる(責任感も含めて)何も持っていない感がとてもいい。
仕事が見つからないので結局大麻の売人になるとか、近所のドーナツ屋のかわいい未成年の女の子をナンパした挙げ句ポルノ業界に返り咲くのに利用しようとするとか、映画の中で起きている出来事はだいたい最低だし、舞台となっている街も色々行き詰まっているように見えるのに、作品全体に妙な陽気さがある。しかしその一方で、作中の随所でテレビから流れる2016年の大統領選のニュースは終わりつつある何かを暗示するようにほのかな影を落としている。
そういったアンビバレントで繊細なバランスと、チャーミングなフレッシュさに溢れた映画。
哀れなるものたち(ヨルゴス・ランティモス)
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東京国際映画祭で見た。
ヨルゴス・ランティモスの映画は毎回おもしろいなと思いつつ、そのシニカルさが好きになれないことが多かった。『哀れなるものたち』もシニカルさはあるのだが、ベラ・バクスターというキャラクターが知的好奇心によってぐいぐい進んでいくので、人間という生命が持つ前向きなエナジーが(その暴力的な一面も含めて)肯定されていたのがとても良かった。
へんてこりんな世界観を成立させている衣装や美術、ジャースキン・フェンドリックスの劇伴の素晴らしさは言わずもがな、エマ・ストーンのベラ・バクスターっぷりも、珍しく二枚目役のマーク・ラファロの調子外れっぷりも、ラミー・ユセフの純真なかわいさもとても良かった。
もうすぐ劇場公開が始まるのでまた見れるのがとても楽しみ。
ノック 終末の訪問者(M・ナイト・シャマラン)
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シャマランにはいつまでも私にとっての未解決事件であって欲しい。
シャマランのけじめと祈り『ノック 終末の訪問者』感想(ネタバレあり) - 紙の類
アルマゲドン・タイム ある日々の肖像(ジェームズ・グレイ)
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シュガーヒル・ギャングとディスコとザ・クラッシュが流れる80年のクイーンズに住むユダヤ系中流家庭の小学生(ジェームズ・グレイがモデル)が主人公。
映画監督の自伝的な作品はなんというかこう気恥ずかしさがあってあまり見るのが得意ではなく、この作品もアンソニー・ホプキンス演じる祖父はかなりイディアルな人道主義者として描かれているのに対して、ジェレミー・ストロング演じる父親の振る舞いの解像度とかなんとも言えない感じはあった。
しかし、主人公の行動があまり見たことがないバランスなのが良かった。一応善悪の区別はついていそうな雰囲気はあるものの、純粋なわがままだったり友達のためだったりという素朴な願望で課外授業をフケたり窃盗を試みたりとスッと悪いことをしてしてしまう。その結果浮き上がる理不尽な社会構造の割り切れなさを絶妙なバランスで描いていた。あと唐突に現れるトランプ一家の迫力がすごい。
イニシェリン島の精霊(マーティン・マクドナー)
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きっかけは中年男性同士のつまらない諍いなのに優しさが少しずつ損なわれていく様子を丁寧丁寧に描いていてめちゃくちゃおもしろい。島から出ない者、出れない者、出なければならない者の違いが残酷。
あとセリフがとにかく音として心地良い。
ザ・フラッシュ(アンディ・ムスキエティ)
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どこまで意図的なのかは分からないが、DCEUの終焉を深く印象づけてしまったこの映画が喪失を受け入れる話だったのは、DCEUやベン・アフレックが演じるバットマンに対してそれなりの思い入れがあった自分にとってはとてもありがたかった。
インターネットではだいぶおもちゃにされていたCGIの使い方も、人類最速というその速さゆえに周りが全て遅く感じるだけでなく自分とすら上手く折り合いがつけられないバリー・アレンの感覚の表現として、すべてが上手くいっているわけでは無いにせよとても良かったと思う。CGIは物理学的に精巧なシミュレーションである必要はないのだから。
大いなる自由(セバスティアン・マイゼ)
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かつてドイツに存在していた男性同性愛を禁じる法律によって繰り返し投獄されていた男の話。
とにかくラストシーンがめちゃくちゃいい。フランツ・ロゴフスキはこの作品に加えて『フリークスアウト』『Passages』とどの作品の演技もすばらしかった。
Pearl パール(タイ・ウェスト)
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パールを演じるミア・ゴスのふわふわとした発声がすごい。
パールの夢が叶うことはないとわかっているのに、スポットライト、映画館のスクリーン、映写技師の青い瞳、パールの白い歯、輝くものは牧場の外への道筋を照らしているように見えるので、「もしかしたら」の可能性が頭をよぎってしまう。悲しさとおかしさの同居具合がとても良かった。
カード・カウンター(ポール・シュレイダー)
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映画の冒頭でモーテルにチェックインするときに「would you like some coffee?」と訊かれた主人公が「how old?」と返すことで「おっこの人物はややこしそうだぞ」と思わせる。その上でこちらの想像を超える主人公の行動で頭を殴ってくる感じにベテランの技を感じた。回想シーンの魚眼レンズを使ったVRぽい撮影もかっこいい。
また全体的に体温の低さを感じる演出・演技の中でティファニー・ハディッシュのクールだけど少しウェットさもある演技が良かった。
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(ダニエルズ)
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ダニエルズは前作の『スイス・アーミー・マン』にしろ、バカバカしさを貫き通して感動にまで繋げているのが本当にすごいしずるい。ロサンゼルスの映画館でアジア系の一家に囲まれて観たという思い出も込み。
その他おもしろかったもの
Passages(アイラ・サックス)
TIFFで観た。まだ日本公開決まってないっぽい。
フランツ・ロゴフスキ、ベン・ウィショー、アデル・エグザルコプロスの三角関係から繰り広げられる視線のやり取りや顔の見えない会話がとても良かった。
ハント(イ・ジョンジェ)
中盤まで何かが常に動いているというか、すごい速度で走っている乗り物に振り落とされないようしがみついているような謎のテンションの高さがある。後半はやや失速するというか、その乗り物が自らの速度に耐えきれずどんどんバラバラになっていくけどそれでも走り続けているような恐ろしさがある。例え話がすぎる。初監督ということでどこまで意図しているのか分からないが、あのギリギリ破綻しているようなバランスをこれからも見たい。
BAD LANDS バッド・ランズ(原田眞人)
原田眞人の映画がおもしろいのは自分の倫理観と照らし合わせて結構困るし、原田眞人の映画のおもしろさというかリズム感は原田眞人の映画でしか味わえないので更に困る。
サリngROCK演じる林田のキーボードの叩き方がぺちぺちしててよかった。
フェイブルマンズ(スティーブン・スピルバーグ)
プロムのシーンが素晴らしいのはもちろんとして、芸術のために食事が犠牲になっていた光景を見させられると『レディ・プレイヤー1』の「現実で美味しいごはんを食べるのが一番幸せ」のセリフについて改めて考えてしまう。
夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく(酒井麻衣)
ありがちなストーリーと、白岩瑠姫の演技の下手さによって逆にこの映画の良さが際立っている。ロケ地の選び方、プロダクションデザイン、構図の取り方などから絶対に平凡な画面にしないという気合が感じられる。教室の中でAirdropで画像を送り合ってこっそり会話するシーンは青春映画における大発明。
異人たち(アンドリュー・ヘイ)
これもTIFFで観た。
正直一回観ただけでは見落としているニュアンスが山程ありそうなので、公開されたらまた観たい。観た後とにかくずっと余韻に圧倒されていたことだけは覚えている。
怪物の木こり(三池崇史)
かつて子どもたちに人体実験をして頭にチップを埋め込み人為的にサイコパスを作り出した人たちがいました、実は主人公はその被害者の一人でサイコパスな弁護士としてブイブイ言わせていましたが、ある日チップに強い衝撃が加わったことでサイコパスではいられなくなりました、とかなりバカバカしい設定ではある。しかし、自身や社会の変化によってそれまでできていた超人的だったり非人道的な振る舞いができなくなってしまい自分の足元が崩れたような感覚になるというのは、現在いろんなところで起こっている切実な問題だと思う。
三池崇史特有のくどさはかなり抑えめではあるが、画面や演出はしっかり格好いいし、亀梨和也の顔がちょっと疲れているのとか、刑事役の菜々緒の髪の毛がボサボサしているのとかディティールも丁寧でよい。こういうバランスの映画をもっと観たい。
TALK TO ME トーク・トゥ・ミー(フェリッポウ兄弟)
若者たちがドラッグの代わりに降霊でトリップしまくるという設定の時点でもうおもしろそうだし、そしてその期待にきっちり応えてくれる。最初は思いっきり異物として写されていた幽霊が、徐々に現実に混ざり合っていく質感の変化がいい。
主人公の友人の親が厳しくて婚前交渉とかホームパーティー絶対許しませんという厳しさの上で、話の展開も結構保守的なのは気になった。
あと出てくる犬がすごいむちむち*1。
バーナデット ママは行方不明(リチャード・リンクレイター)
プロット自体はなんてこと無い話だったりするのだが、とにかくディテールのユニークさと説得力がいい。
主人公が限界に近づいたタイミングで発せられる「ベッドの上に置いてあるタオルで折った動物が耐えられない」というセリフの強さ。
ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE(クリストファー・マッカリー)
なんなんでしょうね、この映画。どこまでやったら映画が/M:iというフランチャイズが/トム・クルーズというスターが壊れるのかという耐久テストというか、その境界線の反復横跳びをしているように思える。
アクションシーンを先に設定する投機的なプロセスにより極めて抽象的になったストーリーやセリフのやりとり。メインディッシュのアクションシーンは全部のせの2乗みたいな過剰さ。作中ではイーサンがいやいや飛んでいる崖から喜々として何回も飛び降りるトム・クルーズの姿を映画の公開前に飽きるほど見ているという反転。
劇映画としての欠点は多数あるとしても、この映画の作られた過程が結果的にテーマと合致しているし、風圧でプルプル震えるトム・クルーズの頬が全てに答えを出してしまっている。
雪山の絆(J・A・バヨナ)
1972年に起きたウルグアイ空軍機571便遭難事故を題材とした映画。登場人物の紹介も早々に飛行機が雪山に突っ込むので、その後の地獄のような日々の長さが際立つ。あと、墜落シーンの「ものすごい勢いで人体が押しつぶされてる様子」の映像表現がキレキレ。
真冬の雪山で、食料もなく、捜索も来るかわからないという絶望的な状況なのに、皆で詩を発表しあったり、写真を撮ったり、ようやく救援が来るとなったときに工夫をして身だしなみを整えたりとか、そういう人としての尊厳を守るための知性の輝きの尊さを感じるシーンがとてもよかった。
オペレーション・フォーチュン:ルセ・ド・ゲール(ガイ・リッチー)
胡散臭い役のヒュー・グラントは何回観てもとても良いのはもちろんだが、ハリウッドスター役のジョシュ・ハートネットの絶妙な小物感がとても良い*2。
全体的な印象は軽妙ないつものガイ・リッチーという感じではあるが、ハッタリや嘘の扱いにガイ・リッチーのエンタメ映画に対する美学みたいなものが見えてじんわり感動した。
ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!(ジェフ・ロウ)
こういうテーマの映画で悪役にICE CUBEをキャスティングできるのはアメリカのエンタメの強みだと思う。ゴロツキの名前がバッドバーニーとか、スーパーフライの登場時にWake up in the skyが流れるとか3秒で考えたみたいなジョークがいい。
コミック調でコマ落とししたような3DCGアニメがここ最近増えている気がするけど、この映画の仕上がりが一番好み。
フリークスアウト(ガブリエーレ・マイネッティ)
フランツ・ロゴフスキ演じる悪役が未来視ができる設定で、自分で作曲した体でピアノでガンズ・アンド・ローゼズを弾いたりしてるのがユニークで良かった*3。
ジョン・ウィック コンセクエンス(チャド・スタエルスキ)
これもある意味でデッドレコニング的な耐久テスト感ある映画だが、子供が人形で遊ぶみたいにもっとストレートにジョン・ウィックを壊しに行っている気がする。
イノセンツ(エスキル・フォクト)
子役の顔と演技が良いんだけど、主人公の子の真顔のふてぶてしさと笑顔のかわいさの絶妙さが特に良かった。視覚効果のエフェクトなしで描かれるサイキックバトルも格好いい。
マエストロ その音楽と愛と(ブラッドリー・クーパー)
この映画はミュージカル映画ではないけど、すべての映画のミュージカルシーンはこの映画のOn the townのシーンくらいのリズム感を持っていて欲しいと思った。
法廷遊戯(深川栄洋)
原作では教室だった無辜ゲームの開催場所が大谷資料館になっていたり、ヒロイン・美鈴の住居が治安の悪そうな雑居ビルになっていたり、ロケーションとその撮り方が紀里谷和明と岩井俊二を足して2で割った感じだった。主人公・清義と美鈴の関係が現代社会の基盤のひとつである司法制度を滅茶苦茶にするという話と言えなくもないので、セカイ系ぽいアプローチをするのはアレンジとしておもしろいなと思う。
FALL フォール(スコット・マン)
こういうワンシュチュエーションのサバイバルものって限られたアイテムをどう使うかがキモだけれど、「使えるものはなんでも使う」の度合いが飛び抜けてて良かった。続編やるらしいけどどういう展開になるのか一切予想がつかない。
映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ(作田ハズム)
壊れた・必要とされなくなった工場の悲哀という点でまさか『アリスとテレスのまぼろし工場』や『すずめの戸締まり』とつながるとは思わなかった。
まとめ
コロナ禍で公開が遅れていたり、コロナ禍以降の企画が公開されたりといった影響のせいか、振り返ってみると2023年はおもしろい新作映画が多かった気がする。
しかしながら自分の映画を見るにあたっての基礎的な知識や視点の乏しさを改めて思い知ったり、『ヘル・レイザー』『雨に濡れた舗道』『アル中女の肖像』等の旧作映画のおもしろさにぶん殴られたりしたので、2024年は新作の見る本数を減らして過去の名作をきちんと見たり本を読んだりに時間を充てたいなと思った。
*1:そしてあらゆる登場人物に「臭い」と言われまくっている。こんなに臭いって言われる飼い犬映画で初めて見た
*2:ジョシュ・ハートネットはオッペンハイマーでも魅力的な演技をしていたし、シャマランの新作にも出るらしいのでとても楽しみ
*3:改めて考えると自分はこういうアホみたいな一発ネタをきっちりやりきっているのに弱すぎるかもしれない