『ホーンテッドマンション』感想

なぜか真夏に公開されたハロウィーン映画。多分そろそろDisney+で配信されるはず。

自分はフィクションの中の「(任意の二人称単数)is the one」描写、平たく言うと運命の人に出会った瞬間の描写が好きなんだけど、ホーンテッド・マンションのそれはとても良かった。本作では冒頭にそのシーンがあるので、そこで心を掴まれてしまった感がある。

年越し直前のバーで主人公のベンは後の妻となるアリッサに話しかける。ベンは量子レンズを研究する優秀な物理学者で、アリッサは幽霊屋敷のツアーガイド。フィクションでお馴染みのナード描写として自分の仕事の内容を専門用語増し増しの早口で説明するベンに対して「目に見えないものを見せることをしてるのね、私も同じような仕事」と言うアリッサ。アリッサの聡明さと優しさが一発で表現されているだけでなく、このセリフにある半ば無理筋でも共通点を見つけて他者に歩み寄ろうとするのがこの映画に通底する姿勢のように思った。

霊界や霊的な存在をよく「あちら側」と言ったりするが、「あちら側」「こちら側」と区分することをこの映画は否定する。それを象徴するのが、主人公が使う霊写カメラの存在だろう*1
前述の冒頭のシーンから時間が飛んだ現在、ベンはアリッサを失い、研究者の職は妻の存在を捉えようとして開発した霊写カメラが原因で失職、行きつけのカフェの店員に「垢じみたにおい (smell like yesterday)」と言われるような生活をしている。そんなところにとても胡散臭い神父のケントが現れ、幽霊屋敷の調査をベンに依頼する。
破格の報酬に釣られて幽霊屋敷の調査に赴くベン。このタイミングではカメラのバッテリーがないのも無視しておざなりに調査をしているため、もちろんその姿を捉えることはできない。しかし、幽霊に取り憑かれたことがわかったベンは屋敷へと戻り、カメラを使って存在しないとされているものを見えるようにすることで、主人公たちは亡霊たちの正体に近づいていくのだ。

正直、映像面・演出面においてはうまいとは言えず、アトラクションを再現したであろうビジュアルやエフェクトもチープさのほうが目につくし、悪役がドナルド・トランプなのは意図はわかるが少し安易に感じてしまう。
しかしながら、ベン(ラキース・スタンフィールド)、ケント神父(オーウェン・ウィルソン)、屋敷の持ち主のギャビー(ロザリオ・ドーソン)、yelpの評価が高い霊媒師(ティファニー・ハディッシュ)、幽霊屋敷を研究している大学教授(ダニー・デヴィート)が一同に会した時の絵面のよさや、ジョークの温度感のちょうど良さなど、否定しきれない魅力があると思った。

*1:このカメラのエフェクトが全体的にゲームの『零』ぽくてちょっと笑った