2021年に見た映画

今年映画館で映画を見た回数は150回(重複があるので作品数は145くらい)。去年が100ちょっとだったのに比べるとだいぶ増えましたね。
その中で特に見てよかったなと思ったものについて記録します。
(順位は特になし)

ベスト

オールド

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オールド : 作品情報 - 映画.com
正直シャマラン作品としては中くらいの評価なんですが、自宅を抵当に入れて制作費を捻出しているシャマランの新作がこんな状況でもメジャースタジオの配給作品として見れるのは感謝しかないです。
シャマラン作品としての評価が落ちる理由としては「世界対自分」という構図が消失することで、シャマラン作品特有のカタルシスがなくなってしまっているという部分が大きいです。
しかしながら世界対自分という構図に関しては、前作のGlassでやりきった感もありますし、また情勢として陰謀論的な匂いのするものはやりにくいという事情があるので致し方ない部分があると思います(Apple TV+で製作を務めている『サーヴァント』では、陰謀論的なものとの向き合いが描かれていますし、なにかしら意識の変化があったのかもしれません)。
ではその代わりに何が描かれているかというと、「家庭人としてのシャマラン と 映画人としてのシャマラン」 なのかなと思います。
『オールド』には2人のシャマランが登場しています。1人はシャマラン自身が演じているとある人物であることは言うまでもありませんが、彼には映画監督としての役割が課されています。もうひとりはガエル・ガルシア・ベルナルが演じる主人公・ガイです。シャマランのインタビュー等を読む限り、このキャラクターにはシャマラン自身の性質が投影されています。
シャマラン作品で繰り返し描かれてきた家族関係の不和を俯瞰し記録する映画監督としてのシャマラン。この対立が迎える結末を詳細に述べることはここではしませんが、本作がファミリームービーとしての側面を持つとはいえ、いままでの作品と比べると(必要な変化であることは想像できますが)いささかこじんまりとしてしてしまった印象があることは否めません。
とはいえ、ファミリームービーでこれやるんだ…という演出や内容であったり、マイク・ジオラキスと組んでから顕著な、浮遊感がありトリッキーなカメラワーク等、やはりおもしろい映画を撮る監督だなと思います。
あと、映画の上映前に流れる製作者や出演者のメッセージムービーって世界観を壊されることが多くて基本的に好きじゃない(パラサイトとか本当に最悪だった)んですが、『オールド』に関してはそこからきっちり本編になっているというサービス精神も素晴らしかったです。
 

街の上で

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街の上で : 作品情報 - 映画.com
今泉監督の映画はそれなりに見ていますが自分の中でいまいち掴みきれないことが多く、一度は見るリストから外してしまいました。しかし、観測範囲での評判が良かったので見に行ったところすごく良かったです。
一見関わりのなさそうな人たちが知り合いだったり、道でばったり出くわしたりでストーリーが展開していくのがすごく東京の街っぽいなと。
その物語をここ数年変わり続けている(しかも新しい駅舎ができる前の)下北沢を街を舞台にしたことで、すごく特別な意味を持った作品になっていると思います。
あと城定イハという最強に魅力的な人物は本当に偉大な発明ですし、イハと青の会話シーンのスリリングさは忘れることができません。
 

ドント・ルック・アップ

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Watch Don't Look Up | Netflix Official Site
アダム・マッケイのポリティカルコメディって、両側をきっちり刺していく意地の悪さとか、やりすぎの一歩手前で止めるバランス感覚とかすごく良いなと思うんですが、何よりも映画としてのルックが好きなんですよね。地の映像とモーニングショー風、ライブ中継風、SNS風、映像素材など、様々な質感の映像が連なることで奥行きが増していく感じ。
『ドント・ルック・アップ』に関しては、環境問題と政治風刺と地球滅亡ものと中年の危機、テックジャイアント批判等々とトピックが盛りだくさんですし、登場人物も多い上に癖が強いので若干まとまりきっていない印象があることは否めません。ですがそのごった煮感が個人的には好きですし、癖の強いキャラクターをただの飛び道具だけでは終わらせず、「人物」として捌ききっている脚本の巧みさが素晴らしいなと思いました。
 

The Hand of God

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Watch The Hand of God | Netflix Official Site
パオロ・ソレンティーノ作品の画面の美しさや、清濁併せ飲んだ上で提示される美の強度、描かれる中年男性の諦観がとても好きなんですが、それ以上に作品全体に漂っているうっすらとした死のにおいに心が惹かれていたんですよね。そして本作を見てその理由がちょっとわかった気がしました。
パオロ・ソレンティーノは映画というアウトプットの形式に対してものすごく精緻なコントロールができる監督だなと思っているんですが、あえてかっちりコントロールしきらず、どこかはみ出すような余白を残しているような感じがあり(しかしながらそれも計算の内なのかもしれないのですが)、本当に技量が計り知れないなと思います。
オープニングから美しく印象深いショットの連続なのですが、主人公の母親が号泣しながらオレンジでジャグリングをするシーンが本当に凄まじくて、それだけでもこの映画を見た価値がありました。普通に撮ったらめちゃくちゃつまらなくなりそうな話をここまで豊かな体験にできるのは、まさに神の手に選ばれた作家なんだと思います。
 

偶然と想像

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偶然と想像 : 作品情報 - 映画.com
今泉監督と同じく、濱口監督の作品も(自分の感受性とか教養の問題であるとは思いますが)ピンとこないことが多かったのですが、年末滑り込みで見たこの作品にはとても心を動かされました。3本の短編のうち2本目と3本目に特に顕著なのですが、自己を無力である、つまらない存在であると思わせるものへの抗いが描かれていて、「Glassじゃん…」と思いました。
起こっている事自体は実際に映画館で笑い声があがっていたように、極めてばかばかしかったりしょうもないシュチュエーションであったりするのですが、だからこそ登場人物に訪れるかすかな救いにとてつもない強度があるんですよね。
個人的にはこの方向性の作品をもっと見たいなと思います。
 

フィールズ・グッド・マン

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フィールズ・グッド・マン : 作品情報 - 映画.com
ドキュメンタリーをあまり見ないというのもあり、映画として優れているかというのは判断できないのですが、ここ5~10年くらいのインターネットコミュニティーの歴史資料としての価値がものすごく高い作品です。
インスタやtwitterをやっている「普通の人(特に女性)」がpepeを使い始めたのがミームが過激化していった原因だったという説明が作中でなされるのですが、それに対して当時4chでコテハンをやっていた男性が「自分たちにとって、女性は現実社会での敗北の象徴だからみんなが怒った」みたいな発言をするのが本当につらくて悲しかったです。
上映後に流れた監督からのメッセージビデオで「日本でも近い問題が起きていると思いますが」というようなことを言っていたのですが、なんj起点で生まれたものや起こっていることが総括される日は来るのだろうかと遠い目になりました。
 

ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット

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ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット : 作品情報 - 映画.com
ジョス・ウェドン版の『ジャスティス・リーグ』は私にとって完璧な映画であったので、公開前は見たい気持ちと見たくない気持ちがないまぜだったのですが、ジョス版とは別物であると思えるくらい印象もストーリーも全く異なる作品でした。
4時間超という長尺が苦にならないくらい力強い映像とサービス精神に溢れた展開。ザック・スナイダーはやはり唯一無二の映画監督であると思います。
ザック・スナイダーカットが生まれた背景には多くの悲しい事が存在していますし、公開されたことでDCFUに本当に区切りが付いてしまった感もあり諸手で喜んで良いのかはわからないのですが、ジョス版に対しての気持ちの整理をつけることができたというのも含めて見ることができてよかったなと思います。
(劇場で見ていないのでレギュレーション違反…)
 
 

その他印象に残っている作品

砕け散るところを見せてあげる

痛々しくはあるんですが、中川大志の演技の曇りのなさによって寒くならないようになっていてとてもよかったです。あとメタファーをそのまま画面に出しちゃうのも好きでした。
 

ディナー・イン・アメリカ

アメリカの郊外を舞台にした破壊衝動マシマシ割れ鍋に綴じ蓋ラブストーリーとか山程あると思いますし、この映画の何が良かったのか未だに言語化できていないんですが、見たあと精神がものすごく浄化された感じがしましたし、今でも作中のシーンを思い出すだけで涙が出そうなくらい心に響きました。
 

樹海村

ホラー演出が一切怖くないというバグを抱えているので、ホラー映画が印象に残ることが少ないのですが、怪奇現象のルックがとても美しかったのと、ネットロアの絡め方が好きでした。
 

聖なる犯罪者

主人公のダニエルが人を救っていたとしても赦されることはない、なぜなら本物の聖職者ではないし犯罪者だから、というのがとても寓話的で悲しかったです。ダニエルを演じたバルトシュ・ビィエレニアのガラス玉のような瞳がダニエルという人物の危うさに説得力をもたらしていてとても印象的でした。
 

アオラレ

予告編を見た印象だと一発ネタ感があったのですが、背景には社会保障とか鎮痛剤依存症とか都市部の家賃高騰による道路渋滞とか様々な社会問題があり、ラッセル・クロウ演じる男の境遇も他人事ではないという感じなのですが、それと対比して男が主人公に嫌がらせをしたり人を殺していくやり方の飛躍具合が飛び抜けていてよかったです。
 

クローブヒッチ・キラー

タフで頼れる父親への疑念が、キリスト教だったりアメリカ的な強さへの疑念と重ねられているのがとてもアメリカの映画らしくてよかったです。
 

トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング

奪われ続ける者としてのネッド・ケリーの身体と、フィッツパトリックら奪うものたちとの身体の対比がとても印象的でした。モンタナの目撃者でもそうでしたが、ニコラス・ホルトのまとうオーラがどんどん異質なものになってきているのがとても良いなと思います。
 

17歳の瞳に映る世界

少ないセリフで説明も最小限だからこそ、終盤の問診シーンのやりとりが強烈な攻撃力を持っていました。フィクションでよくある「街中で声をかけられた人といい感じなる」という展開が全くロマンチックに見えなくなるくらいの強さを持った作品です。
 

少年の君

中国の受験勉強の過酷さについて全く無知だったんですが、学校の机の上にものすごい数の参考書や問題集が積まれていてそれをひたすらに解いているという絵がまず衝撃的でした。ボーイ・ミーツ・ガールものとしてとても美しいのですが、最後に「政府はいじめ対策に力を入れており」みたいな(おそらく)検閲対策の説明が付いているのを見て中国の映画はこれからどうなっていくんだろうかと考えざるを得なかったです。
 

スイング・ステート

田舎を田舎だと思ってなめた態度でいたら壮大なしっぺ返しを食らうというポリティカルコメディ。割とありえないことが続々起こるので笑ってしまうのですが、でもまぁあってもおかしくないなと思ってしまう部分もありました。
 

マリグナント 狂暴な悪夢

見る側の問題もあるのかもしれませんが、抑圧的な作品が増えているような印象がある中で、この作品のサービス精神というかむちゃくちゃやってる感じはすごく良かったです。そしてむちゃくちゃやってるのに話の構造はすごく緻密だったり。家の中の上からのショットとか、ドーン!のシーンとか、警察署でのアクションとか、目の幸福度がとても高かったです。