8月27日に日本で劇場公開されたM・ナイト・シャマラン監督最新作『オールド』について感想をまとめかねている部分があり、まずは前提整理としてシャマランの過去作や近作から引き継がれている要素と、異なる要素をまとめました。
※ 以下の内容は一部『オールド』のネタバレを含み、また事実に基づいて記述された部分と個人の感想が混在しています。
共通の要素
制作費自腹
『ヴィジット』以降のシャマラン映画は、シャマランの自宅を抵当に入れて捻出されたお金によって製作されています。自己資金で製作することで作品の独立性を保ち、リスクを取ることで製作に緊張感をもたせるためとシャマラン本人が説明していますが、作品を追うごとにその制作費は増えており、今作の制作費はおよそ20億円となっています。
制作体制
『ヴィジット』『スプリット』『ミスター・ガラス』で制作会社に名を連ねていたブラムハウスは今作の製作からは外れていますが、『ヴィジット』以降の作品でプロデュースを担当しているアシュウィン・ラジャン、マーク・ビエンストック、スティーヴン・シュナイダーは引き続き参加しています。ブラムハウスはクリエイターの意向を尊重し作品の内容にあまり口出しをしないというスタンスを取ること知られている*1ので、ブラムハウスの離脱がどこまでの影響及ぼしているのかは測りかねる部分がありますが、『オールド』から感じ取れるある種の歪さは、シャマランの意向が直近3作よりもより強く反映された結果なのではないかとも推測できます。
また、その他の主要スタッフに関しては『スプリット』『ミスター・ガラス』からの続投となるマイク・ジオラキスが撮影監督を担当しているほか、音楽のTrevor Gureckis、編集のBrett M. Reed、プロダクションデザインのNaaman Marshall、衣装のCaroline Duncanなど、ドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』からの連続起用となっているスタッフが多く見られます*2。
閉ざされた空間でのストーリー展開
『ヴィレッジ』『レディ・イン・ザ・ウォーター』『ヴィジット』『スプリット』等、シャマラン作品では限定的な空間が主な舞台となり物語が展開することが多く、登場人物たちがその空間から出ることができないという状況に置かれることも多いのですが、『オールド』においても登場人物たちはビーチから出ることができないという状況に置かれます。
カメオ出演
シャマランの新作が公開されるたびに、シャマランがカメオ出演してるのかどうかがシャマラニストの間で焦点となりますが、今作にもシャマランは出演しています。それに加えて本編の上映前にはシャマランによるメッセージビデオが流され、映画を劇場で公開することの喜びが語られるという二段構えの構成になっています。
また特筆すべき点として今回の出演はカメオの域を大幅にはみ出しており、シャマランが演じるということに明確な意味がある役の割り当てとなっていました。これは『レディ・イン・ザ・ウォーター』以来の出来事で、シャマランが子どもたちに語っていたベッドタイムストーリーを元にした『レディ・イン・ザ・ウォーター』と、長女が歌手デビューし次女が監督デビューをしたという家族の節目となるタイミングで製作された『オールド』の2作品においてシャマランが重要な役割を演じるというのは、明確な意図があるものだと推測できます。
秘密のサイン
「隠されたサイン」はシャマラン作品において繰り返し取り扱われているモチーフであり、またそのサインに気づき読み解くということが事態の打開や救済につながる、というのもシャマラン作品では頻出の展開になります。今作においても秘密の暗号が事態を打開する鍵になるわけですが、さすがにあれはストレートすぎるのではないかという気がします。
病気や医療の取り扱い
シャマラン家は医者の家系であり、両親からは当然シャマランも医者になるものと思われていたというのは有名な話です。そのことに対する罪滅ぼしなのかコンプレックスなのかは図りかねますが、シャマランの作品では病気や医療というものがメインの要素として取り入れらがちです。
医者の役でカメオ出演するという『シックス・センス』のような可愛げのある取り入れ方であればまだいいのですが、最近の作品においては病気、特に精神疾患がストーリーをドライブさせるための要素として使われている事が多く、バランスとして危うい印象を受けます。実際に『スプリット』では、その描写が精神疾患に対する偏見を助長しているとして公開中止運動も起こりました*3。
今作においても、ビーチに閉じ込められた大人8人中3人が医療関係者であり、4人が何かしらの持病がある設定となっていますが、この部分は原案から付け足された要素です。また、その中で精神疾患を抱えている登場人物が他者を傷つける行動を取るという展開になっており、個人的には病気というものの取り扱いに関しては若干問題があるのではないかと感じました。
異なる要素
原案あり
『オールド』は、シャマランが子どもたちから父の日のプレゼントとして贈られた『Sandcastle』というフランスのグラフィック・ノベルが原案となっています。過去のシャマラン監督作品で原作あるいは原案が存在したのは(ドラマシリーズを除くと)、大規模なスタジオ作品である『エアベンダー』と『アフター・アース』のみだったので、今作はかなり異質な立ち位置であると言えます。
*1:ジェイソン・ブラムが語る、低予算映画をハリウッドで成功させた秘訣とは?「いつか“完璧”な映画を作りたい」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
*2:2ndユニット監督を努めたシャマランの実娘イシャナ・シャマランも『サーヴァント』にエピソード監督として参加している
*3:Shyamalan's Split Boycotted for Harmful Mental Illness Message