シャマラン最新作『ヴィジット』は恐怖と笑いと茶目っ気と、サービス精神もりもりのサイコーの映画である

さて、ついに明日、M・ナイト・シャマラン監督の最新作『ヴィジット』が日本での公開を迎えます。

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シャマラン監督が製作費の500万ドルを自腹で払い、ホラー映画のプロデューサーとしては現在ハリウッド1の売れっ子であろうジェイソン・ブラムを製作に迎えた本作は、『ハプニング』以来のフィラデルフィアを舞台にしたスリラー作品であることや、全体がミステリーじかけであることから「原点回帰の作品」とうたわれています。
また9月に全米公開された際には、オープニングの興行収入で2500万ドルを稼ぎ、更にはレビューの反応も上々だったことから「シャマラン復活ののろし」などとも言われていました。
ですが、正直この作品「のろし」どころの騒ぎではありません。
随所でシャマランらしさを発揮しつつ、きちんと新しいチャレンジをしつつ、茶目っ気とサービス精神がふんだんに盛り込まれたサイコーの映画となっております。
というわけでそんな映画を1人でも多くの人に見ていただきたいので、個人的なおすすめポイントをまとめました。


映画『ヴィジット』予告編 - YouTube

あらすじ
母親が15年前に絶縁したという祖父母に招かれ、メイソンビルという田舎町にある家を訪れたベッカとタイラーの姉弟。暖かく迎えられ交流を楽しんでいた2人だったが、おじいちゃんとおばあちゃんがときおり見せる奇妙な言動に姉弟の不安は高まっていく。

 

1.恐怖の対象のフレッシュさ

『ヴィジット』では、おじいちゃんおばあちゃんという「肉親」が恐怖の対象として描かれるわけですが、この点に関してシャマランは、

年配の家族に恐怖を持ってしまうというのは、誰にでも思い当たるものかもしれない。それは恐らく、老いることへの恐怖からきていると思う
M・ナイト・シャマラン監督、“どんでん返し”を期待される心境を告白 | ニュースウォーカー

と語っています。
たしかに老人ってその存在だけでちょっと怖いなと思う時があるんですよね。特に子供にとっての老人というのは、自分と同じ人間のはずなのになんでこんなに違うんだろうだとか、奇妙で不穏な存在なんだと思います。生まれてこのかた10年以上会っていなかった老人を自分の血縁者だと言われたら、その違和感は更に強まるかもしれません。
そのような感覚がホラー的に撮られているというのが今回とてもフレッシュでした。
シャマランは今までにも「自分の身体」や「植物」といった、身近だと思っていたものが変質した時の恐怖をたびたび描いてきましたが、そういった普遍的で潜在的に恐ろしいモチーフを選んでくるのが本当にうまいなと思います。

2.底意地の悪い笑いが存分に楽しめる

『サイン』の頭にアルミホイルだったり、『ハプニング』で造花に優しく語りかけるマーク・ウォルバーグであったりと、ある状況下で追い詰められた人間が取る行動の滑稽さを描くときのシャマラン監督はの手つきは、異常に周到で、巧みです。もっと他の部分も頑張るべきなのではないかというくらいきちんと伏線を張ります。
私はそんなシャマランの底意地の悪い笑いが大好きなのですが、『ヴィジット』ではそれが存分に味わえます。
不穏さや恐ろしさを全力で張り詰めた後のまさかの行動や出来事、という笑いの基本である「緊張と緩和」に忠実な展開に、怖がったり笑ったり、あるいは笑いながら怖がったりと、振りまわっされっぱなしです。
また、シャマランといえばストーリー展開の粗というか、伏線等をふっ飛ばした構成が批判されがちですが、今回ジャンルを「ホラーコメディ」と定めて笑いの状況を組み立てることに注力したことで、その丁寧さが映画全編に行き渡り、ストーリーテリングにもいい効果を与えているように思います。

3.純粋な画面の楽しさ

最初に『ヴィジット』を見たときは字幕も何もない状態で見てしまったんですが、すごく画面が楽しくて、それだけですごく満足感があったのが印象に残っています。
それは、POVという形式を選んだことで炸裂したシャマラン特有のトリッキーな構図と、これもまたシャマランの持ち味であるルックの上品さが、劇映画だけでなくドキュメンタリー作品の撮影を多く経験してきたマリス・アルペルチの撮影のもとでバランス良く融合しているからだろうとそのときは思いました。
ですが、クローズドキャプション付きで2回目を見たとき、下のリンク先の動画でシャマランが語っているように

『ヴィジット 』特別映像 - スペシャル映像 - Yahoo!映画

姉弟のそれぞれの視点を通して「映画そのものに対してシャマランが託しているもの」と「撮るという行為の純粋な喜び」が表現されているということがわかったんですよね。
見ないほうが、撮らないほうが良いものを、見ずには、撮らずにはいられないという好奇心が映画全体できらめいていますし、ベッカが映画の中盤で取るある行動には「シャマランはあの信念を映画で表現することを諦めてはいなかったのだ!」ということが分かります。
最近の作品では表現されていなかったシャマランの映画に対する祈りが、映画の体裁を壊すこと無く映画に組み込まれているというのは、それこそ最高と言うほかありません。


というように、様々な要素が有機的に作用し合った結果『ヴィジット』は素晴らしい映画になっています。シャマラン好きにはもちろん、そうでない方にもおすすめできる一本なのではないでしょうか。
以上であげた部分の他にも、キャスト、特に子役の演技が素晴らしいとか、まさかシャマラン映画で「◯◯◯」が見られるとはというようなものがいくつも出てきたりだとか、非常に見どころの多い楽しい映画となっています。
残念ながら日本での公開館数はそこまで多くありませんが、ぜひ劇場で見ていただきたい映画です。
ぜひ!劇場で見ていただきたい映画です!!!!!!