2017年に劇場で見た映画

個人的ベスト10

1. ジャスティス・リーグ

「皆知っている」と繰り返し歌われるオープニングに反して、作中で起こる殆どの出来事は地球の人間には感知されず、彼の復活をはじめとしたいくつかの奇跡が結果として地球に残されるのみ。待望のDCヒーローアッセンブルにしてはあまりにもこじんまりとしているこの作品がそれでも(だからこそ)特別なのは、その「奇跡」というものをこれ以上にない形で映像化しているからであると言えます。
「他の人とテンポが合わない」「友達が欲しい」という言葉をこぼすフラッシュことバリー・アレンにとって、自分と同じ速度の世界に生きる彼との出会いは喜びと同時に大きな恐怖をもたらす奇跡の瞬間であったことは間違いありません。この、ストーリーと映像表現が高度に合致した瞬間の美しさは何物にも替え難く、この瞬間を目撃できた事だけで『ジャスティス・リーグ』は私にとって忘れられない映画になりました。
また、人類であることからも逃れられず「人間らしく」生きる事もできない、バットマンを演じるベン・アフレックの重鈍さも素晴らしかったです。どうやらベン・アフレックバットマンはもうあと一本(フラッシュ単独映画)でしか見られそうにないというのが本当に残念で仕方ありません。
 

2. スイス・アーミー・マン

無人島で遭難した孤独に耐えかね自殺を試みていた男(ポール・ダノ)が、オナラをする死体(ダニエル・ラドクリフ)と出会い、まるで十徳ナイフのような万能機能を持つ死体と共にサバイバルを始めるという突拍子もない設定でありながら、他人とうまく関わることができない人間の苦しさも痛々しさも全て包み込んだような驚異的な作品です。
考えてみればこれもまた奇跡についての映画であり、ラストでそれを目撃した人たちの驚きや喜びや嫌悪など様々な感情が混ざり合った表情は今でも忘れることができません。実際に私はこのラストシーンで号泣していたんですが、一方で劇場内ではクスクス笑っている人もいて、他の人から見たら笑ったりギョッとしたりしてしまうような突拍子も無いくだらないことでも、ある人にとっては救いになり得るのだということを描ききったという点において本当に素晴らしい作品であり、また現実と空想、笑いと悲しみの間を柔軟に跳躍する美しい映像は、映画という形態の楽しさを改めて感じさせてくれた偉大な一本であると思います。
 

3. スプリット

様々なユニバースが乱立する今日のハリウッドにおいて、たったひとりで、しかも制作会社の壁も乗り越えて、いきなりユニバースを発動させたという点において、やはりM・ナイト・シャマランの只者でなさは尋常でないということを思い知らされた作品でした。
ジェームズ・マカヴォイが演じるそれぞれの人格の魅力やアニヤ・テイラー=ジョイの神聖さをも感じる佇まい、マイケル・ジオラキスによる撮影、ホラー映画のお決まりを逆手に取った展開など素晴らしい部分はたくさんあるのですが、映画の終盤で主人公とビーストが対峙した時に「こちら側の存在のみが生き残るに値する(つまりそれ以外は死ぬ)」というある意味選民思想的なシャマラニズムの法則が唐突に全面的に適応された場面こそがこの映画の肝であるように思います。
アンブレイカブル』がある種の源流となった近年のヒーロー映画のトーンが徐々に古びたものになる中で、シャマランが次回作でどのようなヒーロー映画を作り上げるのか非常に楽しみです。
 

4. マンチェスター・バイ・ザ・シー

過去のとあるできごとが理由で地元を離れ、人との関わりを絶って生きているリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)が、兄の死をきっかけに地元であるマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻り、甥パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人として生活をすることになるというストーリー。その過去のとあるできごと以前と現在がまるでフラッシュバックするかのように細かく、唐突に切り替わる構成が印象的でした。
大きな感情表現ではなく細かい仕草などでディテールを積み重ねていって人格や心境を表現するケイシー・アフレックの演技が以前から大好きなんですが、作品全体でそういった細かなディテールが積み重ねられられたような映画だなと思います。
悲しみとの向き合い方は人それぞれで、「おじさんは世間話とかできないの?」と言われてしまうほど人との関わりを絶ってしまっているリーと、毎日別の女の子と遊びまわってるパトリックはお互いの違いに困惑し、すれ違ったりするわけですが、そんな2人がお互いのあり方を尊重するようになるきっかけがものすごく予想外で、だからこそ真に迫っていました。
また、悲しみや困難は乗り越えることによってのみ解消され、カタルシスがもたらされるといった従来の作話上の強迫観念が否定され、困難を乗り越えられないと認めて距離を置くことも一つの解消であり救いであるということを描いたという点において非常に大きな意味を持った作品であると思います。
 

5.トランスフォーマー 最後の騎士王

マイケル・ベイはこれまで事あるごとに「トランスフォーマーを監督するのはこれが最後」と発言してきましたが、『最後の騎士王』は本当にこれが最後になるのではないかと思ってしまうような強い気持ちのこもった作品でした。それは、「こんな映画は子供だましの邪道である」と言われ続けたマイケル・ベイが、王家としての正当性を主張するためにでっち上げられた作り話である「アーサー王伝説」を選び取ったということからもその本気具合が推し量れます。
サム・ウィトウィッキー(シャイア・ラブーフ)という巻き込まれ型主人公から、能動的主人公のケイド・イェーガー(マーク・ウォールバーグ)に替わったことで、人間社会に馴染むことのできない存在の物語であるという側面がより強まったトランスフォーマーシリーズですが、今作ではケイドだけでなくアンソニー・ホプキンス演じるエドや、ローラ・ハドック演じるヴィヴィアンと、ケイドの脇を固める人物もことごとく「物語」を信じてしまっている側の人間となっています。そのようなキャラクターたちが自分のできるベストを尽くしながら邁進した結果訪れる終盤の展開は、マイケル・ベイやケイドたちの誇大妄想が実体化したように思えて、涙なしには見ることができませんでした。
大作映画であればVFXやアクションのクオリティは監督に依存せず一定のレベルが担保されるようになったということを言う人もいますが、やはり画面の構成、情報量、動きの作り方、捉え方など、凄い画面を作る手腕においてマイケル・ベイは別格であり、機械をいきいきと動かすことにかけての執着心と技術は他の監督の追随を許さないものであると思います。
 

6. グッド・タイム

知的障害のある弟ニック(ベニー・サフディ)と一緒に強盗をしたら弟だけが捕まってしまい、保釈金も支払えない間に弟は刑務所から病院送りに。なんとか弟を助け出そうと兄コニー(ロバート・パティンソン)は病院に忍び込むが…というストーリー。素人犯罪ならではの手際の悪さや事実誤認が相次いでどんどん事態が悪化していくという、もしコーエン兄弟だったら完全にコメディになっているだろうなというプロットで、実際に最初の脚本はもっとコメディタッチだったそう*1 なんですが、最終的にシリアスなトーンになったのは、もはや笑いにはできないという判断からなのかなという気がします。
しかしこのコメディになりそうでならない危ういバランスが、弟だけは助け出そうというコニーの切実さをより強調していますし、夜のニューヨークを移動し続ける映像やソリッドな劇伴と伴って、非常に美しく印象的な映画でした。
 

7. ゲット・アウト

いつのまにか催眠術にかけられてしまった主人公のように、世界を覆っていたものが徐々に剥がれ落ちて、あれよあれよという間にとんでもないところに連れて行かれるような感覚がすごく印象的でしたし、その状況の変化がきちんと映像として表現されていたのが素晴らしかったなと思います。特に、タイトルである「Get out(出て行け)」の本当の意味が判明した瞬間の天地がひっくり返ったような衝撃は忘れることができません。
個人的な関心からアメリカの差別の歴史に関して本を読んだりはしてますが、どうしても受け取れきれていないニュアンスはあるんだろうなと思いつつ、中盤のパーティーのシーンではもしかしたらこういう振る舞いを自分もしているのかもしれないし、もし自分の身体的特徴をこのように言及されたらと思うと胃の底から冷えるような思いがして、今年見た映画の中ではダントツに怖かったです。
黒人差別を要素として扱っている作品(ドラマ『アトランタ』のS1 ep.7とか)を見ると「これゲット・アウトじゃん…」とある種ジャンル化して見てしまうというか、自分の鑑賞態度として「ゲット・アウト前」「ゲット・アウト後」に分けられるぐらいにエポックメイキングな作品でした。
本作をはじめ、『ヴィジット』『Happy death day』など、Blumhouse製作の作品は人や社会の中に潜在している恐怖の対象を選び取るのがすごく秀逸ですし、だからこそヒットを飛ばし続けられているのだろうなと思います。
 

8. スター・ウォーズ/最後のジェダイ

まさかスターウォーズがベストに入るとは…というくらいSWシリーズには一切の思い入れが無かったのですが、ハリウッド映画における金字塔であり、ある種の呪いであり、それこそ神話である「スターウォーズ」を他でもないSWの正編でもって殺さなければならないという強い気持ちを感じて、一瞬で好きになりました。
また本作では、ファーストオーダー、レジスタンスの区別なく個々人が企てる計画はすべて失敗し続けるんですが、それでも大きな流れというのはきちんと存在し続けていて、たとえ神話に憧れ神話に選ばれた人物であっても、宇宙や神話といった人間の範疇を超えたものを個々人の意図によってどうこうすることはできないということを描いたのも素晴らしかったなと思います。
「お話」を破綻させながらこれらのコンセプトを貫き通したのはまさに偉業ですし(個人的にはストーリー展開の良し悪しは過去に固定化された評価軸なのでそこにこだわっても未来は無いと思っています)、新三部作の次の展開が楽しみになる非常にエキサイティングな作品でした。
また、個人的にハックス将軍が大好きなんですが、他の登場人物が着々と成長を遂げる中で一切の成長を見せない彼が次どのような展開を迎えるのかというのも非常に楽しみです。
 

9. ムーンライト

どこにも居場所がないという佇まいの青年期のシャロンが画面に映るだけで涙が出てくるような映像の強さももちろんですが、少年期・青年期・壮年期と観客側に時間の断絶が発生する構成の中で、どの情報をどこで開示するのかという脚本の組み立て方がすごくスマートで、いい意味で感傷的でないのが好きでした。
『DOPE!』を見たときにも思いましたが、黒人男性にとって男らしくない、心身ともにマッチョでないということは生きていく上での大きな障害になるのだなというのが伝わってきてつらかったですし、そんなシャロンがずっと心の拠り所にしていたものが一瞬でも報われたことは本当に幸福だったなと思います。
 

10. ビジランテ

埼玉県の地方都市で30年ぶりに再会した三兄弟を主軸とした群像劇。ひたすらに不穏で、どん詰まりとしか言うほか無い息苦しさが印象的でした。「日本の地方都市のリアル」なんてものは私にはわかりませんが、関東の田舎の方に住んでいた頃は確かにこういった恐ろしいものの片鱗を感じとることはあって、そういったやだみがひしひしと身にしみこんでくるような作品です。
自動車での移動シーンが多いのが本作の特徴とも言えますが、アメリカ映画のそれにあるような空間の広がりは一切なく、畑と送電線が広がる景色の中でほぼ同じ道をぐるぐる走りつづける映像に、土地からの逃れられなさが凝縮されていて本当につらい気持ちになりました。
桐谷健太演じる三男・三郎が役柄として若干格好良すぎる気もしますが、それぞれの登場人物がそれぞれの正義や守るべきものに基づいて行動していて、決してその範疇を超えて来ないのも良かったです。
 

 
 

その他印象に残った作品

関ヶ原

時代劇なんですが、会話の間がYouTuberくらいにキリッキリに詰められているのがすごく印象的で、その上バリッバリの訛りが入ってくるのでセリフがほぼ聞き取れない、しかし映像と会話のテンポがものすごく気持ちいいからおもしろい、という稀有な体験ができた映画でした。あと有村架純の動きがおもしろいです。

フィッシュマンの涙

2017年上半期のインターネットを騒がせたものといえば、性の喜びおじさんの存在とその死だと思うんですが、その一連の流れとオーバーラップして見てしまう部分がありました。

WE GO ON 死霊の証明

死ぬのが怖いので死後の世界の存在を証明できる人を募集した主人公が、寄せられた情報について調べていく内に二重の意味で取り憑かれていく様子がすごく良かったです。

キングコング 髑髏島の巨神

様々な巨大生物大暴れ+地獄の黙示録+日本刀という過剰サービス。トム・ヒドルストンが演じた傭兵ジェームズ・コンラッドは、なにが起きるのかわからない状況では無駄なことをしないのが一番賢明であるということを教えてくれました。

バーフバリ 伝説誕生 & 王の凱旋

想像をやすやすと超えてくるアクションと映像展開に驚かされっぱなしでした。エンターテイメントかくあるべしというサービス精神に溢れた素晴らしい作品です。バーフバリ!

パッセンジャー

予想以上にサスペンスかつ歪な映画ですごくおもしろかったです。無重力プールとか、映像的にもフレッシュさがありました。この役はクリス・プラットじゃなかったら気持ち悪さが強くなってしてしまって成立しなかっただろうなぁと思います。

バーニング・オーシャン

どうにかこうにか頑張るけれど一向に状況は良くならないという、ピーター・バーグ監督の前作『ローン・サバイバー』の崖から転げ落ちるシーンが常に続いていくような作品。本作と『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『最後のジェダイ』を見ると、アメリカ映画における勝敗ラインの引き方は全く変わったのだなと言うことを思います。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ

みんな大好きマイケル・キートンの悪役っぷりが相変わらず光り輝いていて最高でしたし、マクドナルドが飲食業界において何が画期的だったのかということがわかりました。

パターソン

パターソン夫妻の距離感とか過保護感に治療っぽさを感じてしまって個人的には『ゲット・アウト』の次くらいに怖かったです。あと、大きな車を運転している時特有の緊張感のある表情ってやはり映像的におもしろいなと思いました。

バリー・シール アメリカをはめた男

邦題だとアメリカをはめたとなっていますが、実際には原題「AMERICAN MADE」の通り、アメリカに作られ、でっち上げられ、はめられた男なんですよね。極彩色で荒々しい編集の映像の中でいつの間にか大変なことになっていくトム・クルーズがとても良かったです。

斉木楠雄のΨ難

山崎賢人の空っぽ感が以前から非常に気になっていたんですが、そのmeaninglessnessと天才っぷりが遺憾なく発揮されていたなと思います。

ウォーマシン 戦争は話術だ!

Netflixオリジナル映画に関してはそんなに本数は見れていないのですが、その中で一番好きでした。下顎を突き出したブラピは最高。

雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

妻をなくしたジェイク・ギレンホールの佇まいと、「全てのものごとが象徴に思える」というセリフで全てを持ってかれました。

セントラル・インテリジェンス

肥満児のいじめられっ子から1日6時間の筋トレを20年続け筋肉隆々のCIAエージェントになったドウェイン・ジョンソンが、唯一自分を助けてくれたという理由で今は冴えない会計士をしているケヴィン・ハートを頼りにするというあらすじの時点で泣きました。オフィスでの戦闘シーンがギミックに工夫が凝らされていて良かったです。